人生の軸を与えてくれた笹岡奨学金

私は2021年秋から、笹岡奨学金の一期生としてドイツ・ゲッティンゲン大学農学研究科へ学位取得型の正規留学を行いました。在籍したSustainable International Agriculture(M.Sc.)コースは、食や農におけるサステナビリティ領域を幅広く扱っており、理論よりも経験に重きを置くコースです。授業では主に計量経済学を学び、それらの知識を生かしてデータ分析を行い、政策などの影響や食にまつわる消費者行動などを評価しました。その中でも特に関心の湧いた「持続可能な食」をテーマに、卒業論文ではドイツを含めた4カ国のグローバルな消費者が環境に配慮した食生活へ駆り立てる決定要因は何かを明らかにしました。論文を書く中で、現在どういった課題があり、どのような仮説を立て、それを立証するのに適切な手法を選び、結果をどのように解釈するのか――。教授や博士課程の学生の助けはありましたが、個人主義的とされるドイツ社会の中では、どう論理立て、なぜその手法を選び解釈したのかを多くの研究論文を考察したうえで、自身で決めた物差しを用いて多角的に物事を捉える能力が求められました。執筆を通じて、サステナビリティの話題は多くの事象が複雑に絡まっていてクリティカルに捉える必要があること、データ分析から得られた結果が身の回りの生活とつながっていることを実感し、研究の奥深さとおもしろさを学べました。こうした経験により留学前に思い描いていた卒業後の姿とは違う新たな道が拓け、大学での学びを生かす方向性に進みたいとの考えに至りました。意欲があればいくらでもチャンスのある環境の中で、在学中にはドイツ語能力を高めドイツ企業でのインターンシップも経験することができ、ドイツ人らの仕事に対するマインドセットや労働環境を知ることもできました。

受け入れ先のGöttingen-Sternwarteクラブでは、Sandra Hinz元会長や、カウンセラーのSönke Jeak氏など、同クラブを通じて大学外でのつながりを得られました。特にお二方には毎週の例会の場だけではなくプライベートな夕食会へ呼んでくださり、ドイツの文化や言語、考え方や社会問題を教わる機会を頂けたことで、ドイツ生活にすんなりと馴染むことができ、日本との違いについても考えるきっかけとなりました。勉学や人間関係など、うまくいく時もあれば困難に直面する時のあった2年半の大学院生活で、私のことを常に気に掛けてくれ、例会へ参加した際には温かく迎え入れてくれてくださったクラブの皆さんが側にいてくれたからこそ、大学院を無事修了することができたと感じております。

海外大学院への留学は不安がつきものかと思います。金銭的な面はもちろんのこと、留学後の就職先や、海外でなければできない研究なのか、はたまた私の場合は、会社勤めをしていたので「満足している今の仕事を手放してまで大学院へ行きたいのか」という葛藤がありました。留学を終えて振り返ると、こうした不安はちっぽけなものでしたし、会社勤めを継続していては経験できなかった素敵な学びや出会いがあり、優秀な学生が世界中から集まる環境で切磋琢磨できたことで人としてひと回り成長できたと感じています。

笹岡奨学金では研究分野を問わない点や、帰国後の居住地を制約されない点など、政府関連などの奨学金に比べて自由度の高い点で非常に魅力的だと感じます。ドイツの州によっても異なりますが、授業料がほぼ無料のドイツで生活するうえで、いただいた奨学金で2年間の学生生活を送ることができ、金銭的な不安なく留学を完遂することができました。在学中には笹岡氏ご本人がゲッティンゲンまで足を運んでくださり、ドイツのロータリーとの交流を深められ、アメリカ合衆国での研究経験がご自身の人生にどう生かされているのかを間近に伺うことができました。社会人としても研究者としても経験豊富な笹岡氏から多くを学び、人生の大先輩として尊敬しております。留学を経て当初思い描いていた卒業後の姿が良い意味で変化し、これからの人生の軸となる学びや考え方を得られたのは、笹岡奨学金のおかげですし、挑戦するチャンスをくれた笹岡氏に本当に感謝しております。

笹岡奨学生第一期生 宮浦晃希

コメントを残す